「母親やめてもいいですか」の感想つづきです。
・主人公の母親の境遇はけっこう恵まれている
批判になるかもしれませんけど、読んだあとしばらく考えて
感じたのは
「この人、結構支えてくれる人いたのに、
こうなっちゃったんだよなぁ」
ということでした。
実母が週末預かってくれるとか、義母も
「いつでもこっちにおいで」と言ってくれるとか、
保育所に入れたということもそうだし
ダンナさんが最終的に子どもを見捨てない人だった、
という事も含めて。
境遇で大変さなんて簡単に比べられないですけど
もっと大変な人、いくらでもいますよね。
もう少し、なんとかできなかったのか。
でも、できなかった。
自分を追い込んでしまった。
頼れる人がいる環境であっても、踏み外す人はいるし、
家庭を壊してしまう人はいる。
そう考えたら私も十分こうなってしまいかねない?
というか私、この人と考え方そっくり?
ここでもう一度、「あ、やばい」です。
・主人公への批判
アマゾンのレビューを見ると、
本に対して数多くの批判が集まっています。
http://www.amazon.co.jp/product-reviews/4780305683/ref=dp_top_cm_cr_acr_txt?ie=UTF8&showViewpoints=1
批判はそのまま「踏み外した母親」に対して
世間が投げかける声だと、私は感じました。
正確に言えば「踏み外したけど、申し訳なさそうに
していない母親」となるのかもしれません。
批判する気持ちはわかります。
私も主人公に対する抵抗みたいな気持ちがあります。
それはここまで書いてきたような
自分に似た人、似た境遇の人が
踏み外してしまった物語を読んで、
自分のダメな部分を客観的に
見せられたような気分になったからです。
ただ、どうにかならんかったのかな
という残念さがすごくあります。
どうにかなったはずの案件なんですよ。
案件というのも失礼ですけど。
彼女の逃避は許されるものじゃないんですが
せめて他の方法だったらまだなんとかなったんじゃ
ないかなとか思います。
例えば、ストレスでお菓子食べるとかだったら
他の母親だってよくやってるドラッグですよね。
(って私だよ! お菓子食べまくってるよ!)
太るし体にも悪いからよくないことだけど、
その程度ならって思われてるような逃避行為ですよね。
浪費とか、何かにはまるとか、ちょっと家出するとか、
彼女の選んだ逃避が、そうした、笑い飛ばせるようなものじゃ
なかったというだけではないのか、と、
そう感じるので、なんとかならんかったのか、と。
・「君が笑っていてくれればそれでよかった」
追い込まれて、家族から心が離れていく主人公に
旦那さんが言う台詞です。
追い込まれると不機嫌になるらしい私にとって
これまた、痛い言葉です。
「多少家事ができていなくてもいい。
奥さんがご機嫌でニコニコしていてくれるのが
赤ちゃんにも、旦那さんにも一番いいことなのよ」
よく、育児雑誌なんかで見る言葉です。
でも、それがどんなに難しいことか。
「多少の問題があっても笑顔でいる」というのは
問題に対して何らかの気持ちの処理をするなり
見て見ぬ振りをするなりした後、
笑顔でいられるくらいのメンタリティでいられる
強さがある、ということで、
そんなに大変なことを簡単なことのように要求しないでくれ、
と、私はそうしたアドバイスを見るたび思っていました。
それを他人の物語として
こうして漫画で読んでみると、笑顔でいてくれ、と
言う旦那さんの優しいようでいて突き放している部分も
確かにあなた今のままじゃまずいよという、主人公の様も
見ていて痛くてつらい。
(後半の、家庭を捨ててるかのような主人公の生活ぶりは
不妊から赤ちゃん時代、どこかで『耐えていた』主人公の
旦那さんに対する反動なんじゃないかなとも思います)
本の中での主人公に対していえるのは
もう十分にお母さんは考えたのだから、
問題を解決しようとしなくてもいいから、
お母さんもたからちゃんも
今日ひとつでもいいことがあったと感じられるように
過ごしてみたらいいんじゃないのかな、
ということです。
たぶん、私が今後追い込まれた私に対して
できるアドバイスも、同じなのでしょう。
あとは、本の中にあるように
「愛着が9歳頃になって形成される」という点を
もっと早くお母さんが知っていれば、向き合い方はまったく
違っていたし、もっと上手に人の手を借りることも
できたんじゃないのかなと思います。
それも本当に惜しいと感じる点です。
漫画に登場する、発達障害の子を育てている
「うしおくんのママ」も
のちに離婚になってしまわれたみたいですけど、
0歳から3歳くらいまでの、本当に大変な期間を
真剣に子どもに向きあってきた母親が
責任を問われた後、離れてしまうというのは
つらいし、ひどい話じゃないかなと思いました。
このあたりは3歳児を育てている自分の思い入れかも
しれませんが、やっぱり悲しいことだし
その時期を育ててきた彼女たちの頑張りは
認めてあげてほしいし、私は認めたいです。
・漫画の説得力がすごい
コミックエッセイ、のジャンルに入るのかもしれない
この本ですが、主人公の母親はライターさんなので、
漫画を描いた方はにしかわたくさんという方です。
すごいっす。
ここまで真剣に感想書いておいて何だけど
漫画だけでも十分おつりがくる読み応え。
描き込みの量もすごい。
当事者本人じゃないということが
物語を客観的に突き放したものにしてくれています。
具体的に言うと
悪役がいかにもひどい顔だったり
口をはさんでくるおばさんが露悪的な顔だったり
主人公以外が全員ブサイクだったりする
漫画がありますが、そういう描き手の
余計な感情が入っていない。
全体に対して丁寧というか誠実。
その分、よけいにズシンと入ってきます。
娘のたからちゃんの、ぐっと口を結んでいる表情とか、
終盤に主人公の母親に語りかけている場面とか、
「やばい」となります。
ここでの「やばい」は、「やばい、泣いちゃう」の、
やばい、ですけど。
「追い込まれる」感覚は、
発達障害の子を持ったお母さんだけでなく
現代に生きる人、すべてに共通する感覚ではないでしょうか。
精神的にやばい「橋」を渡りかけたことのある人なら
この本の「追い込まれる」過程に
引き込まれる感覚がわかるはずです。
落ち気味のときに読むと、引き込まれるかもしれないので、
そこは注意してほしいのですが(私はへこみました)
「やばい」と感じる、「危機への備え」の感覚を
取り戻すには、いい本だと思います。
年に3万人が自殺している日本においては
自然災害や交通事故の恐ろしさを心しておくような
感覚で「やばい」という「危ない橋」への危機感を
心しておいたほうがいいのではないかと思うので
そんな気持ちからの、おすすめです。
ただ、そうした本をおすすめするときに
笑顔ですすめることはないので
なんか微妙な顔になってしまうんですけど、
おすすめです。
もちろん発達障害の子と、育児をする人たちの
理解されづらい状況を少しでも理解するためにも
参考になる本だと思います。
「発達障害の子は、愛着が9歳頃になって形成される」
という点は、できるだけ多くの人、できれば
いま苦労しながら子育てしている人に
早くとどいてほしい事実です。
Amazonの、この本のレビューの中に
「この著者の心の動きを批判することは私にはできません。
あの時心理士のあの言葉がなければ、あの時息子が笑ってくれなければ、
崖に落ちていたのはきっと私です。」
という一文があります。(一番上のレビューです)
その文にこもったしんどさを思うと泣きそうになります。
苦しい。
いまこの瞬間も、そうしたしんどい一瞬を乗り越えようとしている
お母さんがいるのかなと思います。
たからちゃんとお父さん、お母さん、
そして彼女たちを取り巻く人たちに
多くの笑顔がおとずれることを祈ります。