2009年12月25日

身も蓋もない小説「ガープの世界」と奥田民生

今年の夏が終わった頃、子供のことがあって(このへん参照)
安静にしてなくてはいけない時期があったので
とりあえず本を読んでいました。

最初に本棚から手に取った本が「ガープの世界」でした。

家にある以上はもちろん読んだことはあります。
身も蓋もない小説、というのが自分の感想でした。

ガープの出生とか、ガープの初体験とか、しょうもない隣人とか、
結婚しても浮気してるとか、事故の原因とか、
それで失った大きすぎるものとか。
中に出てくる小説についても、そこで語られる事件についても、
エレンと言う名の女の子におきたことについても。

全部、どっか絶望しようにもしきれない感じがついてまわってる。

それでも生きて行かなくちゃいけなくて、
それでも人生はどこかいとおしくて笑える。

そういうことを思いました。
もっともっと学べることはある小説でしょうが、
おそらくは学ぶつもりで読むとつまらないでしょうし
作家の望むところでも、ないでしょう。

「ガープの世界」を手に取ったきっかけは
高校時代に買ったユニコーンの本『イナゲ』で
奥田民生が過去に一番感動した小説、としてあげていたからでした。

奥田民生が感動した、なんて素直に言うのはめずらしい。

というか当時の私にとって、奥田民生という人は、
いつも、インタビューにしろアンケートにしろ
どうでもいいことには答えて、こちらの一番聞きたいことには
煙を巻いてしまう人という印象だったので
そうやって答えていることが、なんか驚きでした。

まぁ、今にして考えてみれば
奥田民生のすべては作品にあるのです。
思い込みや背景や人間性さえも無視したところで
作品を判断してほしい という思いがあったのでしょう。

当時はそういうアーティストの思いなんてわからないです。
というか、当時の音楽雑誌は、そういうアーティストの思いと
ミーハーに彼らを思うファンたちと、今読むとかなり自分語り多めの
担当ライターさんたちと、はざまで苦しむ編集者の
思いや事情がごっちゃになって、カオスなものになってました。

そう考えると
この質問だって無視してもよかったのではないか
とも思うのですが、奥田民生はあえて答えてて、あげてたのが
この小説だった。

主人公のガープも、すぐれた作品を残しつつ
自身に起きた事故や母親との関係から作品を判断されることに
ジレンマを感じたりしていました。

それでも作家の仕事は作品を残すことで
ガープはそのために苦心していて、書けない時期のもやもやした描写など、
自省もあって背筋が寒くなります。

でも、まっとうに評価されなくとも作品を生まなくてはならないし、
生きていれば常に不安や絶望は襲ってくるけれど
小さな良きことを大事にして生きていかなくちゃ、と。

思い入れを拒否して、それでも誠実に解答しようとして
この本をあげた奥田民生が、なんでこの本を選んだのか。
そして彼は、この本を読んで何を思ったのでしょう。

わからない。わからないけどそれでいいです。
私は、小説を読んだ感想だけでなく、
小説を読んでそれがいいと言った
もうひとりのアーティストのことも二重に味わうことができるから。
たとえそれが、こちらの勝手な思い込みであったとしても。

作品は、作家のものであると同時に、読んだ読者のものでもあるので。

それでも生きて行かなくちゃいけなくて、
それでも人生はどこかいとおしくて笑える。
生きていれば常に不安や絶望は襲ってくるけれど
小さな良きことを大事にして生きていかなくちゃ。

正直、時期が時期だったこともあって、
自分に言い聞かせるように、そう考えていました。

いろいろあって読んだ本から、いろいろなことを思いました。

私も、一番感動した小説を、と言われたら
これを薦めると思います。

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ガープの世界〈上〉 (新潮文庫)
posted by ささきぃ at 03:00| 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする