2010年10月05日

なぜ「殴る女たち」なのか

女子格闘家の皆さんへのインタビューをある程度継続してきて、
一冊の本へまとめる、一般誌へのアプローチというお話しをいただいて
女子の格闘技を取り上げるには、
どういうテーマが必要かという話になりました。

女の子が格闘技やるなんて!という
初見のビックリは女子格闘技の大きな武器ではあるのですが、
また、それひとつで企画になった時代も、あるにはありましたが
その切り口は使いすぎてしまった感があります。

しかし、それでもまだ世間的にはマイナーで
知らない人がたくさんいるのが、女子格闘技というものでもあります。

そして「自分探し」でテーマになったのは、もう何年も前の話で、
何か別のテーマがあるべきだとも言われました。

女子格闘技をはじめて見た人に、ひっかかるものは何なのか。
自分自身は、どうだったのか。

古い自分の観戦記などを見てみたり
選手の言葉だったりを思い返してみて
試合を見ている中でも一番、見ている側の自分にズキッと来たのは
女性同士が、顔を殴りあっているという場面だったんじゃないのかな、
と考えたのです。

もちろん、格闘技は突き詰めていけば
殴りあうだけのものではないと分かっているし
組み技の世界を否定するつもりもないですし
技術が進化してしまえば、殴ることも単なる技のひとつではあるのですが
私が見ていてインパクトを感じた、
いまも「うわ」という気持ちを瞬間であるのは間違いありません。

そして、インタビューの中で選手が
「殴るのが好きです」と言ったり
「殴るの、怖いです」と言ったりするのも、耳にしていました。

辻結花選手は「楽しいですよ、殴るの」と、はっきり言います。
そう言っていたとHIROKO選手のインタビュー時に言ってみると
「あぁ、わかります、楽しいです」と言っていました。

殴るのが楽しいって言う女性は(一般の感覚からすれば)珍しいです。
珍しいし、「こわい」って思われることも、多分理解している。
でも言っている、その気持ちはなんなんだろう。

そして、また別のインタビュー時に
アルバイトと格闘技を両立しているという話から
「バイト先のおばちゃんとかにも、何してるか話してますよ。
 ジムでサンドバック叩いたりすると、ストレス解消になりますよって
 話すと、みんなけっこう共感してくれるんです」
と、言った選手がいました。

で、その「共感するおばさん」の気持ちも、
私はすごくよく分かる気がしたのですね。

そういうことが重なると、以前読んだ女性誌に
スポーツをやってストレス解消、サンドバックを叩くと気持ちいい!
みたいなことが書いてあったな、とも思い出したりする。

殴るっていうことを、普通の女性はしないものと思われていますが、
じゃあ、やって、ストレス解消になるっていう気持ちは
なんなんだろうということを考えたのですね。

普通の女性は殴ることをしないのなら、
殴ってスッキリする気持ちが「わかる」と思う、そのおばさんや
私は、なんなのか。
なんで「殴りたい」くらいの気持ちを抱えたりするのか。
そして、殴ることが楽しいと言い切る選手たちは、
どういうことを思っているのか。

女性の顔は殴ってはいけないものだという考えは根深いです。
では、選手たちは、どうなのか。
そこを聞いてみることで
女子選手たちが、なぜ戦うのかというところに
もう一歩、踏み込めるんじゃないだろうか。

そういう気持ちがベースになって
「殴りたがる女たち」というテーマは、どうですかということになったのです。

このテーマは「新潮45」に採用されて、昨年11月号にめでたく掲載されました。
掲載時には「殴る女」となりました。
たしかに「殴りたがる」というより、
殴るのがいやだという人の話も入ってるし、こうだよな、
という感じで納得しました。
このときに話を聞いたのが、辻結花、HIROKO、及川千尋、藤井恵の
4選手です。

思っていた以上に面白かったというか、
もっと、このテーマでいろんな選手に話を聞きたいなと思いました。
そしてこの4選手についても、もっともっと掘り下げたいと思った。
(及川選手は後に引退してしまいましたが)
殴ること、について一面からは書けたけど、
ほかの面からについてはまだ書けてない。
書き切れている感じがしなかった。

その後も雑誌で長いインタビューをやらせていただきつつ、
草思社さんで今年2月に本の企画が通り、
おいおい、本が出るなんてマジかよという気分のまま
取材がはじまっていきました。

全選手の取材が終わって、あらためてタイトルを考えて
やっぱりこれは「殴りたがる女たち」ではなくて
「殴る女たち」であろう、と思いました。

殴りたがるという言葉ではまだなんかリングに上がっていない感があります。

言い換えてみれば、それは見ていて殴り合う様に衝撃を受けた私や
殴ることに興味をそそられたおばさんや、
もしくは無意識下にそれだけのストレスを抱えている
普通の女性は殴り合ったりしないけど、
殴りたいと思ってしまう女性たち について使う言葉であって、
じっさいに殴ることを経験している選手たちを取材した本には
ふさわしくないかなと思いました。
何より、選手の中には殴りたがっていない人もいます。

その言葉はいつか、そんなようなテーマで私が文章を書くときか
女子格闘技に集まる女性たちが社会問題になったとき
それを取り上げる際に使う言葉でありましょう(いつ?)。

このへんの「なぜ『殴る女たち』なのか」ということについては
本の「まえがき」で、自分が取材してきた経緯をふくめて
触れているのでぜひそちらをごらんください。
ざっとですが、女子格闘技の歴史を追いながら書いています。

各選手についてはまたあらためて触れたいと思います。

そして、上のインタビューでの「サンドバックを殴ってストレス解消」
という話をパートのおばさんとしている、と言ってくれたのが、石岡沙織選手でした。
髪が長かったころ、ゴング格闘技で美女三銃士
(石岡沙織、長野美香、岡田円選手の3人です)の取材を
したときに出てきた言葉です。

ご本人は言ったことを覚えているかどうかわかりませんが
さきの辻選手やHIROKO選手の言葉と並んで
彼女の発言は自分にとって大きなヒントになったので感謝しています。

※本の詳細はこちらのエントリをご覧ください※
posted by ささきぃ at 14:40| 「殴る女たち」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする